『英語力ポートフォリオ』の提案
ここ数年に渡って5ラウンド関連の記事をアップしてきましたが、現在その上位互換の概念として『英語力ポートフォリオ』を提唱しています。
前回記事のVoicyパーソナリティが運営する300人以上からなるSNSでは、すでにこの『英語力ポートフォリオ』の概念をもとに、全国各地で取り組みが始まっています。
そこで『英語力ポートフォリオ』とはどういったものなのか、ここで一度まとめておこうと思います。
①5ラウンドを包括する概念としての『英語力ポートフォリオ』
5ラウンドは
・リスニング
・音と文字の連動
・音読
・穴あき音読
・リテリング
という5ラウンドを定期テストごとに行い、年間5回教科書を回すことで自動的な習得を目指す試みです。
実際のところは「最初のテストがリスニングだけでよいのか」「最後のゴールがリテリングどまりでよいのか」「他の英語科教員との連携を考えると自分だけ5ラウンドは採用しにくい」などの問題点も上がってきます。
5ラウンドを開発された玉川大学の西村准教授も「単純な年間5ラウンドが完成形だとは考えていない」とのことで、テストごと、学期ごとにラウンドを回すバリアント(派生)も生まれてきています。
また設定された同じ期間中に、全員がリスニングなりリテリングなりを全く同じタイミングで終えるということがありえない以上、個別最適化への配慮も必要でしょう。
そこで生まれてきたのが、自動的にラウンドを回しつつも、個別の学習ペースに対応させるための『英語力ポートフォリオ』です
例えば、
・単語意味テスト
・単語スペルテスト
・文法テスト
・速読
・熟読
・音読テスト
・暗唱テスト
・会話テスト
・作文テスト
のように最初からその学期や年度でクリアすべき課題を『英語力ポートフォリオ』で最初に提示してしまいます。
単語を全部終わらせてからでないと本文に入らない、と決めつけてしまう必要はありません。むしろ少しだけ時間差をつけてスパイラル状に速読→熟読→音読→暗唱と繰り返すほうが、長期記憶化にも有効だと考えています。正直言って「1コマの授業で単語も文法も本文も活動もする」のは、非人道的です。少なくとも中の人は(指導者としても学習者としても)無理でした。英語で赤点取ってた人間としては、1コマで全部やるなんて「ありえない」「無茶言うな」という思いです。
この旧来の指導法は「一度習ったら、あとはそのレッスンに戻ることもなく放置している」という点でも問題を抱えています(だから5ラウンドシステムが生まれてきました)。
「徹底反復すること」や「長期記憶化できるような程よいインターバルを生むこと」を自動化したのが『英語力ポートフォリオ』だともいえるでしょう。
②個別最適な学びを生む本拠地としての『英語力ポートフォリオ』
前述のように「最初からその学期や年度でクリアすべき課題を『英語力ポートフォリオ』で最初に提示」してあるのは、ファストラーナーとスローラーナー同じタイミングでクリアする必要はないという方針を明確にする意図もあります。年度末の最終評価のタイミングまでに指定された課題をクリアすればオールAの5を与えるとする習得主義ベースの指導法ともいえるでしょう。
最初にゴールを示し、それに対する手立てを教員がうっていくという点では、指導と評価の一体化も実現しますし、何より教員自身が「授業を押しつけるチョーク&トークの一斉指導者」ではなく「一緒にゴールを目指すべく助言しながら伴走するファシリテータ」の立場に自動的に移行していきます。ある意味では、これが最も大きな効果かもしれません。
『英語力ポートフォリオ』は生徒が学習を進めるための本拠地です。
大学生や海外の生徒が自分のロッカーを拠点として各授業教室に出向くように、生徒は『英語力ポートフォリオ』を拠点として単語や本文や英語活動に向かうのです。
そして大学生が各授業で単位を取得するように、ポートフォリオの各項目を任意の順番・タイミングでクリアしていくのです。
難しい課題に苦戦しているなら、方向を変えてシンプルに単語をどんどんクリアしていくのも自由です。基礎に自信をつけた頃、再び英語活動に挑戦すればいいわけです。
いつでも拠点に戻って、自分の学習の進捗を確認したり、英語力の全体像を改めて俯瞰するためには、『英語力ポートフォリオ』は1枚(~数枚)のシートにまとまっている方がよいでしょう。1枚で進捗や自身の成長を確認するという点では、OPPAシートと同じ性質を持っているといえます。
③自律学習(自由進度学習)のための『英語力ポートフォリオ』
ゴールが示され、各自のペースで進めていいという自由が与えられれば、生徒は自発的に学び始めます。本当に「勉強しなくていい」と思ってる生徒は、実はほとんどいません。「どう勉強していいか分かっていない」だけなのです。
まずはゴールを示し、次にどうやって暗記や発表をすればいいかの助言をしてあげることで、生徒はどんどん自律学習を進めていきます。
ここで大事なのは、生徒が学習活動をする時間を十分に確保することです。「教師が40分話し続けて、最後に5分10分自学するだけ」では意味がありません。教師は話す時間を極力減らし(そのぶん密度は上げます)、生徒が自律学習に取り組む時間を捻出しなければいけません。そういう学習環境整備があってこそ、自由進度学習は爆発的な効果をもたらします。
実際のところ「ポートフォリオをクリアさせてあげたい」と思うなら、教師も自動的に「小テストや発表させる時間をつくらなきゃ」という発想になるはずです。
④デジタルとアナログを包括する概念としての『英語力ポートフォリオ』
『英語力ポートフォリオ』は、最終的に獲得すべき英語スキルの全体像を示すためのシートですから、それがプリントアウトした紙のアナログポートフォリオだろうと、生徒のタブレット端末で管理するデジタルポートフォリオであろうと、問題ありません。
e-ポートフォリオという言葉は最近チラホラ聞かれますが、デジタルで管理すればどんなものもうまくいく、というような甘い話はありません。いかに学習を強力に推進する仕掛けが施されているかが重要でしょう。そういう意味で、ここでは「紙ベースだろうがデータベースだろうが生徒が自発的に学びだす仕掛けが施されたシート」のことを『英語力ポートフォリオ』と呼ぶことにしています。
例のVoicyパーソナリティが運営する『英語教員がちサロン』では、こういった5ラウンドや英語力ポートフォリオについての議論や実践報告が活発に行われています。
県の境界をこえて全国の先生たちと切磋琢磨したいという方は、ぜひ参加してみてください。悩みの相談や、教材の共有ができるオンライン職員室が、そこにありますよ!
文責:山田賢治
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